『ユリイカ/ EUREKA』について、私的な備忘録を兼ねて
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『月の砂漠』青山真治監督インタビュー


カンヌ映画祭公式サイトのTV FESTIVALにて中継されていた『月の砂漠』についての青山監督へのインタビューの模様を書き起こしテキスト化したものです。内容に関しては正確さを欠く場合もあります点をご留意下さい。また敬称は略しております。


司会:昨年の『ユリイカ』につづいてこの場に来ていただくのは二度目となるのですが、喜びというのは同じものでしょうか?それともまた別の喜びがあるのでしょうか?

青山:そうですね。昨年に比べて幾分かリラックスできています。というのは、(この映画に関し)やることは全て、努力は全てやってしまったので今は凄くリラックスした気持ちです。

司会:ジャーナリストと出会うということもひとつのお仕事かと思いますが、こうした場はお好きでしょうか?

青山:様々な人と話すのは凄く楽しいことと思います。

司会:今年のコンペには3本もの日本映画が選出されていますが、いま日本の映画は非常に勢いがあると考えて良いとお思いですか?

青山:そうでしょうね。しかし、それが本当にどのぐらい力があるのかというのは、あと2、3年あるいは10年ぐらいの時間が経ってからでなくては2001年に日本映画が力を保っていたと歴史に刻まれるかどうかというのは、その時にならなくては解らないでしょうね。

司会:なぜ「家族」というテーマをお選びになっているのかということをお聞きしたいのですが?家族というものが日本の社会において非常に重要なテーマであるとお考えですか?

青山:ええ、今の日本社会に存在する問題・様々な歪みというものは全てその社会を形成する最小の共同体である家族とその家族における生活の中に要因があると僕は長い間考えていました。

司会:個人主義というものが家族や社会を再構成するカギになるとお考えでしょうか?

青山:そうですね。ただ個人主義というだけではダメなんだと思います。日本の場合特にそうだと思います。個人が欲望を持っているというそのことのみでは家族にはなっていかない。他人を、家族を含めて自分以外の人を認めることが出来るかどうかが、その個人主義に内包される責任のようなものだと思います。

司会:この映画の中では男と女の関係というものも出てきます、そのふたりが男女としてのバランスを取っているということも重要なことだとお考えですか?

青山:本人達が意識してバランスをとろうとしている、ということですか?

司会:ええ。

青山:ただ、それが果たしていつまで機能するかは解らないですね。そのバランス感覚がどこでとぎれるかは解らない。同じ舟に乗っていた家族が突然舟を降りることもあり得る。その時が来てその後どうするのか、バランスを失った舟から降りてしまったあと彼らはどうするのか、これが問題だと思うんです。
この家族は、小さな舟に乗って嵐の中を漂っているようなものなんですね。ですからその不安定さの中でどうして良いのか解らない、しかしそのどうして良いのか解らないという状況に耐えること、それがこの映画の一番のテーマだと思います。

司会:妻のアキラが子供を連れて実家に戻るというシーンがありますが、伝統的な家族や文化の在り方へ帰るということに重要性があるとお考えですか?

青山:それはひとつの幻想ですね。自分の今の生活がダメならば、過去の幸せな頃に戻りたいと思う。それでアキラはかつての幸せだった過去の場所にいってみるのだけど、彼女のいまの精神状態というものは、いま会っていない夫との繋がりにおいてしかない問題であり、結局なんの解決の手だてにもならない。彼女は幻想としてそこに行けば幸せであるように感じる、それが彼女の持つ問題だと思います。

司会:映画の中で主人公はまず大成功を経験してから失敗を経験してゆく、このことは現実に日本社会が経済大国して登り詰め、いま大きな危機を迎えていることとの符号を感じます。こうした現実が発想の原点になっているのでしょうか?

青山:そうです。一番アクチュアルな生活の状態というのが経済危機の直後である今現在の状況を描くことだ、という考えからこうした形を選んだんです。

司会:演出のやり方についてお伺いしたいのですが、最初から完全に構成しきった中で演技をさせたのでしょうか?それとも即興的な部分などもあるのでしょうか?

青山:僕はすべてシナリオに完全に書き込んだ上で現場に向かいますし、もちろんそれは俳優の方々にも渡しています。なおかつ、その上で現場において起こる様々なハプニングに期待しています。その良きハプニングを選択してゆくことによって映画の中に活気が生まれる。というふうに思って演出していっています。

司会:家族についてよく描かれていますが、家族の在り方が非常に重みを持っているとお考えですか?

青山:全てがそこから始まるのだと考えています。

司会:最後に、この映画の中での音楽の使い方と楽曲の選択には非常に注目すべき点があると思うのですが、これは映画を作られる前から決めていた曲なのでしょうか?

青山:いいえ。シナリオを書きながらこの映画にふさわしい歌詞を持つ曲を幾つか見つけていったんです。それがここで使われている曲です。

2001.05.18


 

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