プレス:三上さんに質問です。永井という主人公をどういう風に作ろうとしたかという質問なのですが、青山監督は非常にクリアーにこういう場所でもお話なさいます、日本の現在とかこれまでの歴史とか政治的な問題や経済的な問題をも含めて日本人が責任について成熟しているのかしていないのかということを監督は考えておられると思うのですが、そうした監督のこの作品に対する考えをふまえて三上さんは主人公をどんな男として描こうとしたのかお聞かせ願えますか。
三上:とっても難しい質問でした。まず僕が俳優として役を作ってゆく作り方を説明したいと思うのですが、僕はいつも作品にはいると決めたときからとりあえずひとつずつ自分を外して行く、消してゆく作業から入ります。それは例えば自分がどんな映画が好きとかどんな音楽が好きとか自分の友達と何をしようとか、そうした自分というものをひとつずつ消してゆく作業から入ります。そして何度も脚本を読みながら気がついたことを自分でどんどん貯めてゆきます。そして何度か目を通しているうちに今回でしたら永井という役が空いた体に満たされてゆく。撮影に入る段階ではもう永井という役について客観的にこの人はこう考えているとか、この考え方は僕自身はこうだとかそういうことはあまり考えません。で撮影が進んでゆくうちに永井という役が不意に違うアングルから見えてくることがあります、そうした時に青山監督と一緒にアイデアを交換しながらさらに立体的な人物像を作り上げてゆきました。で最後に(笑)その時には既に僕は永井になっていますので青山監督の社会の見方や考え方について永井として監督と話し合います。そこに三上博史はいないんです。と僕は思ってやっているはずです(笑)
プレス:仙頭プロデューサーは具体的にどうやって監督からこの映画のアイデアを伝えられゴーサインを出したのですか?また俳優の方々がこの作品に出演を決めた経緯はどんなものだったのですか?
仙頭:この『月の砂漠』という企画は、彼が僕と一緒に最初に作った『Helpless』という映画の時からあった企画なんです。去年ここで『ユリイカ』が終わったときに、じゃああれをやろうかということでホテル・マルティネスのプールの横でふたり合意した次第です(笑)
通訳:それは仙頭さんが決めた?
仙頭:ふたりで決めたんです(笑)
通訳:俳優の方々は?
三上:僕の場合はいただいた台本を見て決めました。
通訳:仙頭さんの作品だから、青山さんの作品だからということではなくストーリーのみで決めたということですか?
三上:いえいえ、台本には単にストーリーだけではなくて、もちろん仙頭さんや監督の名前も書かれておりますので総合的に判断したということです。
とよた:私も三上さんと同じで、台本をいただいたときに仙頭さんのプロデュースで青山監督の作品である、そして内容がこれである。その役が私にとってやりたいのかやりたくないのか、出来るのか出来ないのか、そういう基準の上で今回は是非やりたいと心から思ったし、これは自分にとって一番集中すべき時期だと珍しく思えた作品なので選びました。
プレス:三上さんに質問です。三上さんは日本でもたくさんの映画やドラマに出ておられますが、外国でも広く紹介された作品では大島渚監督『戦場のメリークリスマス』とポール・シュレイダー監督の『MISHIMA』という映画にご出演なさっています。それぞれの映画で描かれている世界は今の世界とは正反対の世界ということもあり、お嫌いではないですか?
三上:今回の映画の世界ですか?
通訳:いえ『戦場のメリークリスマス』と『MISHIMA』の世界です。今それを観るととても恐ろしい世界だと思っていらっしゃらないですか?
三上:(笑)あ、そういう意味か。また来たなー(笑)ええ、そうですね。
通訳:『戦場のメリークリスマス』は別にしてポール・シュレイダーの『MISHIMA』は、やはり日本に関する考え方が恐ろしいじゃないですか。
三上:答えは合ってるかどうかは解らないんですけど、そのころ僕は二十歳ぐらいの時でそれから数年さかのぼった僕のデビューというのは実はフランス映画だったんですね。寺山修司監督の『草迷宮』という映画なんですけどフランス資本によるフランス人プロデューサーの作品で、その時もすごく日本を意識した映画だったので、外国人であるポール・シュレイダーによる日本の見方もあるし、大島さんのような日本の見方もある。そして今回の『月の砂漠』における青山監督のような日本の見方もあるというふうに考えています。
司会:時間が来ましたので、以上となります。ありがとうございました。
2001.05.18
|